【3347】 ○ 堀内 都喜子 『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか (2020/01 ポプラ新書) ★★★★

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何か自分の職場や生活にとってヒントになるものはないか探してみるもいいのでは。

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フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか (ポプラ新書 ほ 2-1)』['20年]『フィンランド豊かさのメソッド (集英社新書)』 ['08年]

 以前、その著書『フィンランド豊かさのメソッド』('08年/集英社新書)を取り上げた著者の本。フィンランドは、国連が毎年発表している幸福度ランキングで、2018年、2019年と2年連続で1位となった国ですが、フィンランド人は、仕事も、家庭も、趣味も、勉強も、なんにでも貪欲で、それでも睡眠は7時間半以上とるとのことです。本書は、フィンランド大学大学院を卒業し、フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で仕事をしている著者が、こうしたゆとりのあるフィンランド流の働き方の秘訣を解説したものです。

 第1章では、フィンランドがなぜ幸福度1位なのかを分析しています。それによれば、1人あたりのGDPは日本の1.25倍で、マクロ経済の安定度は世界1位、インフラや教育が高く評価され、ヘルシンキはヨーロッパのシリコンバレーと呼ばれる一方で、子ども貧困率はOECDの2018年調査ではデンマークに次いで2番目に低く(日本は34位)、同調査で教育、所得、生活満足度、健康の格差の平均順位をとっていくとフィンランドはデンマークに次いで2番目に格差が少ないとのこと。働く人々は夏にほとんどの有給休暇をまとめてとり、1カ月はしっかり休んで、有給消化率はほぼ100%。さらに、ふだんも、定時にオフィスを出て、残業はほとんどしないとのことです。著者によれば、フィンランドはパラダイスではなく課題も多くあるが、「日本もこうなったらいいのに」と思う部分が、特にワークライフバランや「ゆとり」の部分に多くあるとのことです。

 第2章では、フィンランドの人たちの働き方を紹介しています。16時を過ぎるころから一人、また一人と帰っていき、16時半を過ぎるとオフィスにはほとんど人はいなくなるといいます(フレックスを利用して8時から働き始めているというのもあるが)。まず、基本的には、残業しないのができる人の証拠だとされていると。また、3割の人が週に1度以上在宅勤務しているとのことです。オフィスもフリーアドレスの会社が増えてきており、立って仕事をする人も多いとのこと。スポーツインストラクターによるエクササイズ休憩(昭和の日本企業の職場での午後3時のラジオ体操みたい)を採り入れているところもあれば、コーヒー休憩を設けることが法律で決まっているというのは驚きです。コーヒー休憩はコミュニケーションの場にもなりますが、そのほかにも、社員同士が交流するレクリエーションデイや、時には外で話し合うリトリート、更には、サウナ会議などというのもあったりするとのこと。著者は、こうした仕事文化の根底にあるものとして、フィンランド人がよく使うウェルビーイングという言葉を挙げており、さらに、ウェルビーイングとともに、企業や組織が追求するのが、効率であるとしています。

 第3章では、フィンランドの人の働き方を見ていきます。フィンランドの仕事で肩書は重要ではなく、組織はオープンでフラットであり、組織のリラックスした上下関係は、年齢、性別、学歴などによっても左右されないとのこと、最近ではIT企業などでボスのいない職場というのも生まれており、また、歓送迎会もコーヒーでシンプルに行われ、接待さえも、ランチミーティングやブレックファーストミーティングでやってしまうことがあると。また、父親の8割が育児休暇を取得するとのことです。

 第4章では、フィンランド人の休み方を見ていきます。フィンランド人は、仕事も好きだけれど、それ以外の時間も大切にし、また、会社も福利厚生の一環として、仕事以外の活動や趣味を支援するとのこと、睡眠は7時間半以上確保し、週末も趣味、スポーツ、DIYなどに充てるとのことです。お金をかけずにアウトドアを楽しむコツを知っていて、また、土曜日は「サウナの日」で、9割以上の人がサウナを楽しむと。サウナは接待やおもてなしの場にもなるとのことです。夏休みは1カ月で、1年は11カ月と割切って心置きなく休む工夫をし、また、その分、夏は大学生が大きな戦力となり、企業にとってもインターンシップとしてプラスになるとのことです。

 第5章では、フィンランド人の根底にある「シス」という考え方を紹介しています。シスは、フィンランド語で、困難に耐えうる力、努力してあきらめずにやり遂げる力、不屈の精神、ガッツといった意味を持つ言葉です。シスは、フィンランド人にとっては、「自分の強い気持ち」を表しています。それが仕事も、家庭も、趣味も、勉強も、全てに貪欲に取り組む姿勢につながっているようです。

 第6章では、フィンランド人の貪欲な学び方を見ています。総合大学は授業料が無料で、多くの人が修士取得まで勉強を続け、また、大学や職業学校などでは、社会人向けの短期から長期の講座を多く用意しているため、転職者の二人に一人は、転職の際に新たな専門や学位を得ているとのことです。ですから、将来を見据えてAIを学ぶ人も多いとのことです。国の施策としてワークライフバランスの向上を目指す一方で、個々人は課題を冷静に見つめ、努力することも忘れない、そうした仕事も人生も大事にするという国民性なのだなあと思わされました。

 本書は、著者の前著『フィンランド 豊かさのメソッド』('08年/集英社新書)と同じく、豊かさとは何かということがテーマになっているようにも思います。人事パーソンの目線で言うと、前著のビジネス版ということで、2章から4章で、なぜそうすれば働きやすさと仕事の効率の維持が両立可能なのか、もう少し突っ込んで欲しかった気もします。ただし、日本でも働き方改革の議論が進んでいますが、ともすると労働時間を減らすということばかりに目が行って近視眼的になりやすいのではないかと思われ、その点では、フィンランドは日本とは国土も人口も、法律も制度も違い過ぎるといって、フィンランドで行われているようなことは日本できはしないと諦めるのではなく、本書を通して、何か自分の職場や生活にとってヒントになるものはないか探してみればそれなりに得るものはあるように思われます。


《読書MEMO》
●目次(一部抜粋)
1 フィンランドはなぜ幸福度1位なのか
・2年連続で幸福度1位の理由
・「ゆとり」に幸せを感じる
・自分らしく生きていける国
・ヨーロッパのシリコンバレー
・「良い国ランキング」でも1位
2 フィンランドの効率のいい働き方
・残業しないのが、できる人の証拠
・エクササイズ休憩もある
・コーヒー休憩は法律で決まっている
・「よい会議」のための8つのルール
・必ずしも会うことを重要視しない
3 フィンランドの心地いい働き方
・肩書は関係ない
・年齢や性別も関係ない
・ボスがいない働き方
・歓送迎会もコーヒーで
・父親の8割が育休をとる
4 フィンランドの上手な休み方
・お金をかけずにアウトドアを楽しむ
・土曜日はサウナの日
・心置きなく休む工夫
・休み明けにバリバリ働くフィンランド人
・おすすめの休みの過ごし方
5 フィンランドのシンプルな考え方
・世界のトレンドはフィンランドの「シス」!?
・ノキアのCEOも「シス」に言及
・職場でも、シンプルで心地いい服を
・偏差値や学歴で判断しない
・人間関係もシンプルで心地よく
・コミュニケーションもシンプルに
6 フィンラドの貪欲な学び方
・仕事とリンクする学び
・2人に1人は、転職の際に新たな専門や学位を得ている
・学びは、ピンチを乗り切るための最大の切り札
・将来を見据えてAIを学ぶ人も多い

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